佐賀県鹿島市で地産地消にこだわったお酒造りに励み、地元の銘酒「能古見」を醸す馬場酒造場の親子お二人にオンラインインタビューしてきましたので、ご紹介します。
佐賀県鹿島市は佐賀でも有数のお酒どころとして知られ、3万人の人口規模の街に現在でも5社6蔵の酒蔵さんがあります。
馬場酒造場の八代目馬場 第一郎社長は佐賀県酒造組合の会長も務められ、名実ともに佐賀を代表する蔵元の一つ。
今回は、馬場社長が「能古見」ブランドでこだわり続ける地産地消の想いを尋ね、そしてその想いを引き継ぐ九代目 馬場嵩一朗(しゅういちろう)さんには今後の展望を伺いました♪
また7月30日(土)19:00から、その馬場酒造親子二代をお招きしてオンライン酒蔵留学を行います。
オンライン酒蔵留学とは、毎月一回、今ホットな蔵元さんをお招きして、日本酒に関して、つくり手に関して、その地域文化に関して、おうちで一緒に飲みながら学ぶ新しいサービスです。
本記事を読んで、当日のオンライン酒蔵留学をもっとディープに楽しめるものにしましょう♪
馬場酒造場 八代目社長
馬場 第一郎さん
佐賀県鹿島市出身。
大学卒業後、家の事情によりすぐに蔵を継承。鹿島 山田錦部会を結成し、地元のお米にこだわったお酒造りを行う
馬場酒造場 九代目
馬場 嵩一朗(しゅういちろう) さん
佐賀県鹿島市出身。
鹿児島大学連合農学研究科(佐賀大学配属)。父の想いを引き継ぎ有明海の分離酵母や環境保全米を使用したお酒造りなど注目の若手蔵元
目次
「馬場酒造場」について
インタビュアー:まっすー
馬場社長、今日はよろしくお願いします。
早速ですが、馬場酒造場さんについて少し教えてもらえますか?
馬場社長
はい、よろしくお願いします。
私たち馬場酒造場は、佐賀県鹿島市の能古見地区に蔵を構え、創業より200年以上の間、清酒ひとすじに造り続けてまいりました。
佐賀の食材、佐賀の濃い味付けに合うように、弊社のお酒はやや甘口のお酒を基本としております。
佐賀の蔵を構える以上、佐賀の文化、食材、地域に根ざした地酒を追求しています。
なぜ地産地消にこだわるのか?
これまでの清酒業界にはびこっていた「既得権益」という癌
インタビュアー:まっすー
佐賀の銘酒「能古見」ブランドは、八代目である馬場社長が平成5年に立ち上げたブランドであるとお聞きしました。
その真髄は、佐賀県鹿島産の山田錦を使った地産地消を体現するものであると認識しています。
また馬場社長自らが地元の農家さん達に交渉をして、鹿島の山田錦部会まで立ち上げられたということも聞きます。
どうしてそこまで地産地消にこだわるのでしょうか?
能古見ブランド設立当時の日本酒業界の背景などお伺いできますか?
馬場社長
まず能古見ブランドを立ち上げようと思った平成5年ごろは、一級酒や二級酒など級別によるお酒ランク付が残っている時代であり、級毎に価格が決まっていました。
また販売する場所も全て決められておりました。
この地区はAという酒屋さん、この地区はBという酒屋さんという具合に・・
つまり今みたいに自由に販売場所を決められたり、価格設定することができない時代だったのです。
簡単にいうと、特定の事業者が儲かるような仕組みになっているバリバリの既得権益の時代ですね。
それで、当時の酒販店さんに色々聞いて回ったのです。
「次の後継はいるのか?」と。
そうすると
「これからの酒屋は食いっぱぐれもしないけど、伸びもしない。
だから、本人も継ぎたくないと言っているし、ご両親も継がせたくない」と言っているのです。
そして、それが私が聞いた中では8割にものぼったのです。
ということは単純に計算して売り先が8割減になるわけですよ。
となると、うちの蔵は残っていけないなと。
それからが「能古見」のスタートでした。
業界の癌を治す解決策が地産地消?
お米農家の見える化により付加価値を上げる
インタビュアー:まっすー
なるほど・・
当時の清酒業界の流通の課題がわかります。
そもそも清酒はグローバル化で多様なお酒が入ってきたことで、シェアを取られていっており、そこにこれから人口減少がのしかかってくるとなると、ますます状況が悪くなる。
抜本的に解決する必要があるが、当時のやり方では、価格も上げることができず、誰も儲からない。
そのうちに跡取りがどんどんいなくなって、沈みゆく船になってしまうということですね。
馬場社長
はい、そういうことですね。
それから、生き残りをかけて地元のお米にこだわった「能古見」ブランドを創ることを一大決心したのです。
佐賀は一次産業圏であり、農業・漁業が産業の中心です。
農業が衰退し、離農者が増えると佐賀の人口減少に直結します。
ですから、私が造るお酒によって少しでも離農者を減らすことができればと考えています。
そのためには、今まで誰が作っているのかわからなかったお米を、「どこの誰が作っているのか」その生産者を見える化することが必要だと考えます。
実際、能古見のお酒のラベルには「お米の生産者の名前」が書かれていますが、こうすることで農家さんも自慢することができる。
「僕が作ったお米でこのお酒ができているんだ」という風に。
それはいわゆる良い口コミにもつながります。
そして、生産者が見えるというのは消費者にとっては、安心・安全につながるので、お酒の付加価値になるのです。
ですので、能古見は720mlで3,000-5,000円で売り出そうとしました。
しかしながら、当時の酒販店はそんな価格帯だと盆暮れ(お盆と年末)にしか売れないと言われたのです。
ですが、私はそのぐらいの価格帯でも日常酒として飲んでいただけると思ってました。なぜならワインなどはそのぐらいの値段でも普通に飲まれるからですね。
ブレイクスルーしたのは、当時の「特選街」という雑誌の酒類コンテストで2年連続No. 1をとって、それが地元の新聞に取り上げられたことをきっかけに火がつきました。
そこからは、確かに高いけれども、価格に見合った味だということで、何も言われなくなりました。
今でも私は日本酒が安すぎると感じています。
これからの業界全体のことを考えると、しっかりと付加価値をつけて3,000-5,000円でも買っていただけるようにして、そして農家さん達に還元できるような体制が必要だと考えています。
一つのブランドを創り上げるには20年かかる・・
インタビュアー:まっすー
「地元のお米にこだわる」という言葉の裏側にはそんな背景と想いがあったのですね。
馬場社長
はい。そして当時のお酒の研修会か何かだたかと思いますが、ある方にこう言われました。
「君たち酒蔵が一つのブランドを作って、成り立たせるまでに20年かかるよ。」と
一つの商品は一年に一回しか仕込みをしないので、20年でも20回しか同じ商品を作らないということになる。
そして、当時の私は27歳だったので、例えば60歳を定年とすると、残り33年しかない。
つまり、二つのブランドを創ることはできない計算になりますね。
それから、この「能古見」というブランドを造るにあたって、大きな決意と想いを入れ込むようになりました。
自分が納得がいくお酒を造ると考えた時にはやはり私たちは地酒屋なので、地元のお米にこだわり、「どこの誰が作っているのかわかる」お酒造りにしようということになったわけです。
父から息子へ。引き継ぎたいこと
インタビュアー:まっすー
ありがとうございます。
地産地消に対する想いをより色濃く理解できた気がします。
最後に今年の4月から息子さんが会社に入られたとのことですが、息子さんに引き継ぎたい想いなどはありますか?
馬場社長
うーん、引き継ぎたい想いというよりは、彼がやりたいことをバックアップしていけるようにしたいなと思っています。
地元のお米を大切にしたいというのは息子もわかっていますが、それ以外の味わいなどはその時のニーズに合わせて変えていく必要がありますよね。
私も蔵を継ぐにあたって、ブランド名含めて色々と変えていきました。
実際、能古見ができる前は、「芳薫(ほうくん)」というブランドがありましたが、それを変えました。
当時は親戚たちからも「芳薫」はどうするんだとか色々言われましたが、
私は「名前を残すのか、会社を残すのかと問われたら、私は会社を残す」と言って反対を押し切りましたから。
だから、仮に息子がブランド名を変えると言われても、私は否定できませんね(笑)
今回お送りするお酒について
インタビュアー:まっすー
馬場社長ありがとうございました。
そしたら、息子の嵩一朗(しゅういちろう) さんにお伺いしたいと思います。
馬場社長は息子さんがしたいことをサポートしたいと言われてますが、今回お送りする新商品のお酒について伺ってもいいですか?
嵩一朗さん
はい、まず今回お送りする有明海から分離し、育種改良した酵母のお酒ですが、まず皆さん有明海からの酵母?というところにすごく疑問を持たれると思います(笑)
酵母というのは目に見えないだけで、実際にはどこにでもいて、その中から日本酒造りに合う酵母を清酒酵母として使用しているのです。
僕は鹿児島大学の大学院(佐賀大学配属)で農学研究科を専攻しており、その時の研究で有明海で採れた酵母の一部が清酒造りに合うかもしれないということを発見しました。
なので、それを育種改良して今回使用してみたということです。
有明海ということで佐賀っぽいですよね?
やはり地元にこだわるということで有明海の酵母というのは面白いと思ってます。
味は、皆さん飲んでからのお楽しみです(笑)
実際、こちらはまだ名前も決まっておらず、しかも発売前なので、次のオンライン酒蔵留学で飲まれる方が初めて飲むということになります!
そして、もう一つの環境保全米で醸す『能古見〜ごえん〜』ですが、環境保全米という、鹿島の「棚田」と「干潟」を守るということが第一義的な目的にあるお米を使って醸すというのが特徴になります。
どういうことかというと、昨今農業従事者の減少で、棚田を守る農家さんがいなくなってきています。
棚田が荒れると土砂崩れが起きやすくなります。
そうなると、干潟も荒れてしまい、有明海の豊かな生物形態も崩れてしまうのです。
それを食い止めるためには、特定の棚田のお米を使ったお酒を造って販売し、そこが経済的に潤うことで、農家さんを戻す取り組みが必要になります。
こちらも初の取り組みで、7月19日に初蔵出しを行います。
父の想いを引き継ぎ、地元を大切にしながらも意味のあるお酒造りを行いたいと考えています。
今後のビジョンについて
インタビュアー:まっすー
とても面白い取り組みで、当日は話題豊富すぎて困りそうですね
今日のお話のより詳しいところはまたオンライン酒蔵留学の時に語っていただければと思います。
最後に今後のお酒造りにおけるビジョンなどを教えてください
嵩一朗さん
僕の代になったとしても、「能古見」というブランドは守っていきたいと思っています。
「能古見」というのはこの能古見村からとった名前で地産地消を大切にしていく心です。
この地域を守るためには、やはり環境保全米など農業従事者を守り、圃場を維持する取り組みをやっていきたいと思っています。
あとは「能古見が好き」だけではなく、「能古見の〇〇が好き」と言われるまでになりたい。
例えば「能古見 BLOOM」が好き、「能古見 あらばしり」が好きなどですね。
能古見の心意気を守り、同じ清酒で同じ銘柄でありながらも、多様な味を作ることで、様々な人に楽しんでほしい。
そう思っています。
最後に
馬場社長、嵩一朗さん、ありがとうございました。
2022年7月30日(土)19:00から、今回ご紹介した馬場社長と嵩一朗さんを迎え、オンライン酒蔵留学を開催します。
今回は、ハンズオン初の親子出演です。
テーマは【一家相伝】地産地消のお酒造りを学ぶオンライン酒蔵留学と題して行います。
皆様のご参加、ぜひお待ちしております♪
■詳細・お申し込みはこちら
https://hands-on-local.com/products/sakaguraryugaku_sabusuku