第41回オンライン酒蔵留学レポ
【石川県鳳珠(ほうす)酒販組合理事長 七海屋(しつみや)代表 七海友也氏】日本酒文化を販売で支える<酒販店>の視点から、能登の現状と私たちにできる支援についてお話しいただきました。
2月18日〜21日、ハンズオン代表増田とオンライン司会者コカドの2名で北陸へ。七海理事長自らの運転で現場をご案内いただき、メディアで見る以上の状況を目の当たりにしました。復興どころか、まだ復旧にも至らない能登の現状の一部をお伝えします。
今後「私たちに何ができるのか」を考えるきっかけにしていただけると幸いです。
オンライン酒蔵留学とは
オンライン酒蔵留学は、おうちにいながら地方のお酒の作り手さんとダイレクトにつながって、一緒に乾杯できる日本酒通販サービスです。作り手さんの想いや人柄も味わうことができ、日本酒を通して「人生の学び」や「新たなつながり」が生まれます。離れて暮らす仲間と「たのしく学ぶ」ことで、いつものお酒がさらに美味しく味わい深くなっていきます。
本記事は、2024年3月30日(土)に能登地震被災地支援のための特別企画として開催。酒蔵とともに、日本酒文化を販売で支える<酒販店さん>のお話を伺いました。大変な状況の中、3つの蔵元さんから、選りすぐりのお酒をお送りいただき、各留学生がそれぞれ違うお酒を飲みながら、能登の現状やこれからできる支援について学んだ内容をシェアします。
SAKEクラファン能登半島被災酒販店支援 期間4月末まで受付中
SAKEクラファン<令和6年能登半島地震 酒蔵支援プロジェクト>も、期間を延長して4月末まで受付中です。引き続き、ご支援をよろしくお願いいたします。
令和6年に発生した能登半島地震で被害を受けた鳳珠(ほうす)酒販組合傘下の酒屋様を支援する目的のクラウドファンディングです。鳳珠酒販組合は、被害が甚大だった輪島市、珠洲市、穴水町、能登町を担当しています。
日本酒に携わる私たちとしてご支援したいと考え、立ち上げたプロジェクトのひとつです。
「地震ではなく地殻変動」 隆起で能登半島の地形が変わる程の災害
今回の能登半島地震は、地震ではなく地殻変動です。輪島市門前町の地面が4メートルも隆起して、港が港ではなくなっています。海だったところが地面になり、能登半島の地形そのものが変わってしまいました。
七海屋のある奥能登地区は最も被害が大きく、言葉にならない惨状です。奥能登地区にある11の酒蔵すべてが被災し、全倒壊の蔵も多数あります。私たち酒販店も酒瓶が割れる・汚れる等の甚大な被害を受けました。
日本酒は、お酒を造る<酒蔵>とお酒を販売する<酒販店(酒屋)>の協力体制が大切だと、私は考えています。酒蔵さんと我々酒販店が手を携えて一緒にがんばる<製販一体>で、大きな力が生まれるのです。今回、酒蔵の被災状況とともに酒販店の状況も知っていただき、長い目で能登地域をご支援をいただければと思っています。
七海屋の店舗も元旦の地震で棚が倒れて、商品のほとんどが落ちて割れました。破片と液体の海で、どこから手を付けていいのかもわからない。倉庫でも棚が倒れて足の踏み場もありません。2店舗あるうち、生家でもある1店舗は全倒壊。
ようやくコロナ禍を抜けて、外でお酒を楽しむ機会も増えてきたところでした。新しい年を迎えて「今年から大いに頑張って出直していくんだ!」というその日の出来事。1月1日は震度1以上の地震が521回もあり、今も余震がある中で暮らしています。ライフラインの復旧もままならず、あらゆる点で不便な生活です。
鳳珠酒販組合には120社130店舗が加盟しているのですが、3カ月たった3月末時点でも、未だ4割の加盟店と連絡が取れない状況が続いています。
「能登は優しや土までも」人のつながりを大切にする風土
能登は優しや土までも」は、能登の風土や、住む人の飾らない自然体の優しさ・あたたかさを表した言葉です。地震後、たくさんの方にご支援をいただき、私たちもできることに取り組んでいます。
例えば、2007年の能登半島地震をきっかけに、2004年に中越地震で被災された長岡市(旧川口町)との交流が10年以上続いています。お互いの震災の経験を共有して復興につなげようと始まった交流で、川口町のイベントに出店して、お酒を酌み交わしたりしてきました。
今回の地震で七海屋の現状を私がSNSに掲載したところ、それを見た旧川口町の4人の方が「片付けのお手伝いに行くよ!」と1月3日から1泊2日で駆けつけてくださったのです。おかげさまで、なんとか足の踏み場もでき、1月5日の夕方から地元のみなさんのために店舗の営業を再開することができました。
お礼の気持ちから、私も2月に旧川口町のイベントへ、残った地酒と能登牡蠣を持って出店し、大変喜んでいただきました。
また知人の依頼で、ペット用の支援物資を七海屋に置いて、無料でお渡しする場所としてもご利用いただいています。
さらにボランティアで能登へ来てくださった方が、能登半島のおみやげとして、傷ついた瓶や汚れたラベルのお酒や食品を選んで買ってくださり、あたたかなご支援もいただいています。
国道沿いに店舗があるため、全国から消防車・救急車・自衛隊の方々・水道局の方々が,
人命救助や復旧作業のために列をなして支援に来てくださっている様子も見ています。
みなさんのご支援に、感謝の気持ちでいっぱいです。
七海理事長とともに能登の酒蔵を訪ね、現状を知る
ハンズオン代表増田とオンライン司会者コカドが2月18〜21日、能登の現状を知るために北陸を訪れました。
七海理事長自らの運転で現場をご案内いただき、被災された酒蔵を訪ね、現状についてお話しいただきました。復興どころか、まだ復旧にも至らない能登の現状の一部をお伝えします。
鶴野酒造
(地震前)
(地震後)
写真では、道路を通れるようになっていますが、被災当初は道路向かいの家まで河原や瓦礫が到達していたそうです。ご家族みなさまがご無事だったことが何よりでした。
松波酒造
(地震前)
(地震後)
なんとか建っているのものの全壊で、ほぼペシャンコの状態
石川県酒造組合連合会のきずなの強さで、奇跡的に救出された松波酒造の酒米を石川県内加賀地区の酒蔵で仕込み、4月12日から「大江山」をオンラインにて販売
大江山オンラインショップ
数馬酒造
安否の連絡がなかなかとれず、この時(2月)七海理事長も震災後初めて蔵元と直接顔を合わせることができました。やっとの再会で目には涙も。
段差・地面の亀裂・わずかながら津波も工場にあがり、蔵いっぱいの汚泥。断水が長期に及び清掃ができない状態が続いていたのですが、3月15日ようやく断水解消されました。
4月から瓶詰めを再開。近況は数馬酒造HP・Facebookで知ることができます。
数馬酒造HP オンラインショップ
SAKEクラファンのみなさまから蔵元様へのメッセージを書いた色紙をお渡ししました
宗玄酒造
石川県内トップ3に入る大規模な酒蔵です。裏山が崩れて、土砂・倒木が平成蔵ビルに入り込み、電信柱もなぎ倒されて送電も停止。2月1日から電気がない中、手仕事でできることを再開。3月30日現在、電気は仮復旧したものの、水道は依然復旧せず清掃も難しく、新たな瓶詰めも進まない状況が続いています。
道の奥にあった旧国鉄能登線のトンネル(温度が低く、お酒を安定して保管できる)を利用して貯蔵したお酒が名物だったのですが、土砂が建物までなだれ込みトンネルも崩壊。
櫻田酒造
櫻田酒造のある珠洲市は震源地で、津波で命を落とされる方もいらっしゃいました。移動する際に通った海岸線も、タイヤがパンクするのではないかと思う程ひどい道路状況でした。
珠洲市地域のほとんどの家屋が全壊または大規模半壊。「ずーっとずーっとどこまでもどこまでも倒れた家が続いていて、この地域の復旧や、復興してみんなが戻ってきて暮らしている様子が頭に浮かばない」と七海理事長が感じた程の惨状でした。
3時間の行程で人に会うことはほとんどなく、多くの方が現在も避難生活を強いられています。
3つの酒蔵さんから、心のこもったお酒が届きました
今回、七海屋さんのある奥能登地区は被害が深刻でしたが、隣の地区の3つの酒蔵さんのご協力をいただき、それぞれの酒蔵さんから選りすぐりのお酒が届きました。
3種類の銘柄のお酒が各留学生にランダムに届き、七海理事長からそれぞれのお酒のオススメポイントも教わりながら、能登の現状や今後の支援について学ぶ会となりました。
久世酒造 能登路
天明六年(1786年)創業。津幡町で代々家族で経営する238年の歴史を持つ酒蔵で、蔵元は能登杜氏を襲名。
「良い酒を造るためには良い米から」の理念のもと、自社の田で栽培された自社ブランドの酒米「長生米」を使用し、米のうまみをしっかり活かした酒造りを手がける。自社の2つの井戸から、軟水と硬水の2種類の仕込み水を使い分けた酒造りも特徴。
今回の震災では、自社Facebookにてクラウドファンディングも実施。
久世酒造オンラインショップ
能登路
米のうまみが活きた味わいのある特別純米酒
しっかりとした硬水を使った味わい
ほんのり琥珀色 ふくよかでおだやかな香り
お肉や天ぷらなど、しっかりした味わいの元気が出る食事に合うため、
元気を出したいときにオススメ!
鳥屋酒造 池月
大正8年(1919年)創業。105年の歴史を持つ酒蔵で、「飾らない自然体で皆様に愛されるようコツコツ商い」をモットーにした酒造りが定評。一度は酒造りを中止に追い込まれたのですが、地元有志が一致団結して再建。
池月
源頼朝ゆかりの名馬の名【池月】を冠した銘酒 本醸造
能登の素朴な優しさを味わえる酒の代表格
伏流水の軟水で仕込んだ飲み飽きない辛口
素朴な酒本来の味わいで、疲れている方にオススメ。くつろいで味わっていただきたいお酒です。ゆっくりとした時間をすごしていただくお供に。
冷や・常温・ぬる燗とオールマイティで楽しめます。
三谷酒造 山王 能登純米
江戸末期から明治初期の創業で150年以上の歴史を持つ酒蔵で、観光名所の一本杉通り(醤油屋さん・ろうそく屋さんなども並ぶ商店街)沿いに店舗を構え、「神力」も看板の酒。今回の震災では蔵も被災しました。
画像出展 2023年:
山王 能登純米
県産米を使用した純米酒
無色クリア さわやかできれいな味わい
青竹・笹の葉の香り
県産米を使用し、加賀の酒蔵さんにお願いして醸造
きりっとした軽やかさで、飲み飽きないので、
おだやかな1日の終わりに好きな音楽や動画・番組などを楽しみながら味わってください。
「能登は優しや酒までも」焼酎やワインも!能登の名産をご紹介
能登半島は「醸しの里」と呼ばれ、美味しいお酒がたくさんあります。日本酒だけではなく、焼酎・ワイン・地ビール・地元の材料を活かしたジンなど、様々なお酒や発酵食品も造られています。
七海理事長のオススメのお酒をご紹介いただきました。
能登の麦焼酎 極
能登半島で採れる能登海洋深層水と国産大麦で造る能登の麦焼酎
まろやかさ のどごしの良さ
七海屋店主も酒造りに携わり、仕込み水だけではなく、原酒(35度)を25度に落とす割水にも海洋深層水を使用する、まれな製法を採用
(地震後は、深層水を採取する海底の地殻変動にも注視しています。)
能登ワイン
穴水町にある石川県で初めてのワイン工場。20年前、七海屋店主も創設者の一人として参画。能登で採れたブドウで醸すワインは、年々評価が上がっています。
能登牡蠣の殻を施したブドウ畑はミネラル豊富な土壌となり、ブドウに含まれるミネラルも豊富になります。そのため、ワインも美味しい仕上がりに。近年は日本ワインコンクールでも受賞。
特にオススメは、ヤマソーヴィニヨン
口当たりの良さが女性に人気
(能登ワインは設立20年の新しい施設ですが、今回の地震で樽が落ちる・製造タンクが破損する等の被害があり、およそ10000リットルの原液を失いました。)
能登牡蠣
能登牡蠣は濃厚な味わいで、私も大好きです。牡蠣が蓄えた海水も「海のスープ」で、大変美味しい。いろんな地域のイベントで地酒とともに焼き牡蠣も提供して、とてもご好評をいただいております。
七海屋では、能登牡蠣も販売しています。HPには掲載していないのですが、お問合せいただければ全国発送いたします。
能登の地酒とのマリアージュをぜひお楽しみください!
一斗缶入り・半斗缶入り 全国発送しています。
お問合せ 七海屋 TEL 0768-52-1133
能登の地酒と季節の「まいもん」をみなさまに
「まいもん」とは能登弁で「うまいもの」のこと。
地元で採れる「まいもん」に地酒が合う。ホントにそうだな、って思います。
能登は四季がはっきりしていて、三方を海にかこまれ、山もある。
春、山に行けば山菜(こごみ・わらび・行者にんにく等)が、川に行けばイサザ(春告魚「はるつげうお」とも呼ばれる白魚)が採れるのです。穴水町の海の浅瀬では、「絹もずく」と呼ばれる細くて口あたりのやわらかなモズクも豊富。能登牡蠣やナマコも名産です。
(出展:能登半島広域観光協会HP)
いつ、どの季節も「まいもん」がたくさん。美しい景色も広がっています。温泉もあります。
何より私が、みなさまをお待ちしております。
落ち着いたら、ぜひ能登を訪れていただいて、「能登のまいもん」をみなさんに召し上がっていただきたいです!
地酒と能登牡蠣を持って、みなさまの地域のイベントにもお伺いしますので、ぜひお声がけください!
また、ふとした時に能登を思い出して長く続くご支援をいただければ、私たちにとって、とてもありがたいです。
今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。
これからの継続した支援こそ大切
留学生(参加者)感想より
◎今は無理でも、ライフラインが復活したら、能登からの発信もあると嬉しい(いいのではないか)。
◎能登のお酒を販売している酒屋さんを検索できると、自宅近くですぐに購入できる。
◎酒蔵さんからも、取扱店である酒屋さんをご紹介いただけるとありがたい。
◎飲んで応援!
◎できることはぜひやりたい!
◎定期的に応援のイベントを。
◎ラベルが汚れたお酒をイベントだけではなく、通販でも買いたい。
◎備蓄するつもりでお酒を買いました!
◎能登に縁もゆかりもなくても、支援していい!!
七海理事長、ありがとうございました!
●過去のオンライン酒蔵留学一覧はこちらから!
<次回予告>第42回オンライン酒蔵留学【櫻田酒造・四代目蔵元杜氏 櫻田博克氏】
1914(大正3)年創業の櫻田酒造は、奥能登の猟師町石川県珠洲市蛸島町にあり、家族4人で営まれている小さな酒蔵です。
手がける銘柄は二つ。創業銘柄で平成に入って復活させた純米酒の「大慶(たいけい)」と、本醸造・上撰の「初桜(はつざくら)」。どちらも地元のみなさまに愛され親しまれてきたお酒です。
実は昨年5月、震度6強の地震により蔵の壁が崩れる被害を受け、修復したばかりでした。ところが「正月明けから仕込みを」と思っていた矢先の今年元日、再び震度6強の地震に襲われて一瞬で蔵も自宅も倒壊してしまいました。命からがら逃げ出せたものの1,000本以上の在庫が廃棄となりました。
ハンズオンSAKEでは、地震発生直後の1/3から弊社運営のクラウドファンディング“SAKEクラファン“にて能登半島酒蔵支援プロジェクトを立ち上げ、872口・8,303,028円を日本酒造組合中央会に寄付させていただきました。
その後、2/20に代表増田とオンライン司会者コカドの2名で能登へ出向き、櫻田さんにも直接お会いしてきました。
櫻田さんはこの惨状を前に「廃業」の文字が頭をよぎったそうですが、お客様や取引先からの応援の声に心動かされ、酒造りの再開を誓われました。 そして石川県内の酒蔵の協力を得て共同醸造にとりかかり、前向きに取り組まれています。
(次回オンライン留学では、蔵に残っている最後のお酒をお送りいただきます。)
今、私たちにできることは、そんな櫻田さんの想いを飲み、語り繋ぐこと。
みんなで一緒にこれからの櫻田酒造、そして能登の未来について語りませんか?
つくり手さんと「つながる」
つくり手さんの想いを「のぞく」
自分たちの世界観を「ひろげる」
次回もハンズオンポーズで乾杯!