秋田県男鹿市で2021年に創業以来、一世風靡している稲とアガベの代表取締役 岡住氏にオンラインインタビューしてきましたので、ご紹介します。
実はこの稲とアガベ。日本酒ではなく、「クラフトサケ」という新ジャンルであり、酒税法的には「清酒」ではなく、「その他醸造酒」に含まれます。
本記事を見れば、この日本酒業界のNew Waveとされる「クラフトサケ」とはどんなものなのか。
また秋田県男鹿市を日本酒特区にするという大きな目標を掲げ、業界の壁を崩し、若いつくり手のための道を創らんとする岡住社長とはどんな方なのかを理解することができます。
また5月28日(土)19:00から、その岡住社長を招いてオンライン酒蔵留学を行います。
オンライン酒蔵留学とは、毎月一回、今ホットな蔵元さんをお招きして、日本酒に関して、つくり手に関して、その地域文化に関して、おうちで一緒に飲みながら学ぶ新しいサービスです。
本記事を読んで、岡住社長が行っていること、そして目指す先を知って、当日のオンライン酒蔵留学をもっとディープに楽しめるものにしましょう♪
きっとこれからの日本酒業界が明るくなると思えるはず!
稲とアガベ 代表取締役
岡住 修兵さん
福岡県北九州市出身。
秋田の酒蔵で働き、秋田に恩返しをするため秋田県男鹿市で2021年に創業。「男鹿の風土を醸す」を経営理念に、秋田県男鹿市を日本酒特区にすべく、日々革新的な活動をされている。
目次
「稲とアガベ」について
インタビュアー:まっすー
岡住社長、今日はよろしくお願いします。
早速ですが、稲とアガベさんについて少し自己紹介してもらえますか?
岡住社長
私たち「稲とアガベ」は秋田県男鹿市で2021年の秋に創業したクラフトサケ醸造所です。「クラフトサケ」とは、日本酒の製造技術をベースとしたお酒、または、そこに副原料を入れることで新しい味わいを目指した新ジャンルのお酒です。
ちなみに稲とアガベの「アガベ」とはテキーラの原材料のことで、仕込みの段階でアガベシロップを入れます。
アガベシロップは糖分なので酵母がアルコールに変えてしまい、味にはほとんど影響がないのですが、副原料を添加しているため、法律上は『清酒』ではなく『その他の醸造酒』となります。
ちなみに副原料にアガベを選んだ理由は、妻がテキーラ好きだからです(笑)
今ではアガベだけでなく、ビールのホップを入れたりと様々なクラフトサケを醸造しています。
なぜクラフトサケで挑戦するのか?
インタビュアー:まっすー
ちなみに、なぜ日本酒ではなく、クラフトサケで勝負されているのでしょうか?
岡住社長
現在の日本では、日本酒を造るための免許の新規発行が原則認められていません。私たちのような新しい醸造所は、日本酒を造ることができないということです。
そのため、副原料を加えた「その他醸造酒」というジャンルで勝負をしているのです。
今後の日本酒業界の発展のためには、現行法を改正し、若く有望なつくり手を輩出していくことは必要不可欠だと考えます。
しかしながら、現行法の改正はハードルが高いものです。
一方で、クラフトサケだからこそ出せる味わい、魅力もあります。
ですので、まずはクラフトサケを突き詰めて、その上で現行法を改正してもらえるような動きをしていきたいと考えています。
その詳細については後述します。
お酒造りに携わり始めたきっかけ
インタビュアー:まっすー
なるほど、ではそこを深掘りする前に、岡住社長がお酒造りに携わり始めたきっかけを教えてもらえますか?
岡住社長
僕は1988年に福岡県北九州市で生まれ、大学は神戸大学経営学部卒です。
大学ではアントレプレナーシップとベンチャーファイナンスを専攻していました。
お酒に目覚めたのは、大学生の頃に神戸の日本酒居酒屋で秋田県のお酒を飲んで感動した時からです。
それから「ここで働きたい!」という衝動に駆られ、2014年4月から誰一人として知り合いのいない未知の土地秋田での生活をスタートさせました。
そこでお酒造りを学び、秋田の人たちに外部からきた自分を快く受け入れてもらっているうちに「秋田に何か恩返しができればなあ」というのが、秋田での起業の最大の動機です。
秋田県男鹿市の特徴
インタビュアー:まっすー
秋田県男鹿市というのはどんな特徴がある場所なのでしょうか?
岡住社長
秋田県男鹿市は日本海側に少し突き出た男鹿半島の大半を占める市です。
男鹿半島には大きな産業がなく、人口減少も急速に進んでおり、緩やかに消滅する未来が迫っています。
しかし、海も山もあり、綺麗な湧水も湧いていて、自然豊かな素敵な場所です。
僕は半島は文化的に非常に面白いと思っています。
海運が中心だったころには、日本海側を北前船(江戸時代に江戸や大阪と北海道をお往復する船)の往来があり、男鹿半島は船乗りにとって目印や目的地であったため、中心的な街として発展しました。
そのため、ナマハゲ文化なども起こり、それは今でも脈々と続いています。
それが、陸路の開拓とともに海運の時代が終わり、市街地から取り残されたことで半島の先は一気に取り残され廃れていきました。
しかし、だからこそ当時独自に発達した文化はそのユニークさを保ち、今でも続いているという側面があります。
いわゆるガラパゴス化ですね。
ユニークな文化があるからこそ、観光客は年間250万人超え(2019年)とひっきりなしにきます。
しかしながら、宿泊者数は11万人程度しかおらず、観光で人は来るが宿泊者は少なく、お金が地域に落ちないという課題があります。
ですので、自分達がこの男鹿の地で事業を起こすことで、この男鹿の地に遊びにきて、お金を落とす一つの理由になりたいと考えています。
だからこそ、醸造所だけでなく、レストランやオーベルジュなど多面的に展開し、「稲とアガベがあるからこそ、秋田に行きたいよね」といってもらえるほどの突出した宿を作りたいと思っています。
そういった事例を一つずつ作ることが、秋田観光全体の底上げにつながるはずです。
日本政策金融公庫と秋田銀行から2億円を超える融資を受けられた理由
インタビュアー:まっすー
2021年の5月10日に0.3%という低金利で、
日本政策金融公庫と秋田銀行から2億円を超える融資を受けられています。
2億円というのはとてつもない融資額です。
その融資を受けることができたのは一体なぜでしょうか?
岡住 社長
もともと大学時代に金融を学んでいたので、銀行マンの方々がどのような思考回路で融資を決定するのかその理論を理解していました。
簡単にいうと、彼らは非常に現実路線です。
ですので、僕らが夢のようなことばかり言っても、彼らは融資をおろしてくれたりはしないのです。
もちろん夢も大事ですがそれ以上に、その事業が本当に成功するのか。
そこをきちんと説明できるかどうかが大事なポイントです。
ですので、創業前からその成功する理由づくりをやってきました。
例えば、創業前に群馬県の土田酒造さんでプロトタイプの試験醸造を行い、それを持って酒販店さんから自分達が醸造所を作ったら買いますという確約をもらっていました。
その覚書をいくつもの酒販店さんで集めて、提出することによって、現実的に自分達が創業してからの売り上げが必ず見込めるというロジック固めをしていきました。
またその上で、担当者の人に自分の味方になってもらうことは重要です。
自分を応援してもらうことで、秋田全体が盛り上がるというビジョン・夢を情熱をもって語りました。
その中に上述したオーベルジュの話もしましたね。
ですので、「現実と夢」。
その両軸が非常に重要で、銀行の方々にはそこを認めてもらえたからこそ2億円という融資を実行してもらえたのだと思います。
自然栽培米について
インタビュアー:まっすー
とても勉強になる話です。
ところで、稲とアガベさんは自然栽培米でのお酒造りも一つの特徴だと思います。
その自然栽培米とはどういったものなのでしょうか?
岡住 社長
自然栽培米と言っても色々な方法論がありますが、簡単に言うと無農薬で肥料も入れずに作物を育てる栽培方法です。
青森県の弘前大学の杉山修一先生が自然栽培のただ一人の研究者で、その方の講義を聞いて、非常に興味を持ちました。
杉山先生によると『自然に生えている草木とは違い、人に育てられた植物は肥料によって窒素過多になっているため、病気や虫を引き寄せてしまう』
『農薬とは、人間が作り出した不自然な状況をなんとかするために生まれたものだ』とおっしゃられていました。
吟醸酒などでなぜお米を削るのかというと、お米の外側のタンパク質を削るためです。
このタンパク質は溶けるとアミノ酸になり、それはお酒にとっては雑味になる。
そのタンパク質はどこから来るかというと田んぼの肥料からです。
つまり、肥料を与えずに無農薬で育てれば、余計なタンパク質は発生しないということ。
この事実を知ってからというもの、自然栽培米を使うことがブランドの価値にもなり、農家さんや蔵人たちにより利益を還元できるのではないかと考え、チャレンジしてみたいと思うようになりました。
もともと僕はナチュラリストみたいな人でもなんでもないです。
だから、全ての田んぼが無農薬でないといけないとかそんなことは思いません。
でも僕は昔から、お米の磨き具合によって価値づけする日本酒の世界にあまり共感できない部分がある。
お酒造りにおいてはつくり手さんによって色々な考え方があると思うが、僕がお酒造りをやる上では、お米を磨くと言う価値づけ以外の方法で価値をつけたい。
お米を磨かず、技術を磨くことで美味しいお酒を造りたいと思ったのです。
考えてみると、戦中・戦前は全体の国税のうち酒税が占める割合が30-40%に達したこともあり、酒税で戦争していたと言われるぐらい日本人は日本酒を飲んでいました。
もちろんビール・ワインなど海外産のお酒が入らなかったことが一つの理由ではあるとは思いますが、とはいえそれだけ飲まれると言うことはその時代のお酒が一番美味しかったはず。
その時代は今みたいに精米の技術や保存の技術なんてない時代。
だからこそ、僕は昔ながらの製法である「自然栽培で、低精白で、生酛づくり」で、現代の人の口に合う付加価値の高いお酒造りを目指していこうと考えています。
清酒製造免許の新規発行が認められない現行法の壁に立ち向かう
インタビュアー:まっすー
話が変わりますが、岡住さんは新規の清酒製造免許が降りないという現行法に対して異議を唱えられ、様々な活動をしてらっしゃいます。
現行法を崩すにおいて、一番壁になっていることはなんですか?
岡住 社長
まず第一に業界全体が新規参入に反対しているという事が挙げられます。
個別の蔵で賛成しているところはありますが、酒造組合が反対している限り、法律は変わらないと思いますね。
これを変えるためには、まず一つは世代交代。
時間的な問題ですが、これは一つあると思います。
次に、変えたいという人がいるかいないか。
そして、変えたいと思って、ちゃんと旗を立てる人がいるかどうかです。
実際、醸造免許の新規発行ができないということを知っている人はかなり少ないです。
酒蔵さんで知らない方もいらっしゃいます。
だから、自分が創業前から「僕はこの法律を変えたいんです」と会う人会う人に話していくと次第にそれがトピック化されて、話題になっていく。
そのように少しずつこの事実を伝えることは大事だと思います。
また本家本元の法律を変えるのは難しいので、まず男鹿を日本酒特区、国家戦略特区にすることを大きな目標に据えています。
つまり、男鹿市内なら日本酒が造れますよと言う状態にすることです。
そうすれば有望なつくり手が男鹿にくるかもしれない。
あとは、6次産業化ですね。
耕作放棄地を開拓して、そこで採れたお米であれば日本酒つくっても大丈夫という形にする。
「農業を守る」という文脈で認められる可能性はあると思っています。
そのほか、観光を絡めてレストレランを併設し、そこで提供する分だけ許可をもらうことだったり、醸造体験などとセットにするというやり方もあると思います。
今、日本全体が観光立国を目指しているので、他の省庁巻き込んで、日本全体としてこうしていった方が面白いよねと言うコンセンサスが取れれば、次第に変わっていく可能性もありますよね。
最後に、ウルトラCプランとして、現在自分が主演のドキュメンタリー映画を制作してもらっています。
とある方に、1年ぐらい密着してもらっていて、2年後には世に出る予定で、世界の映画祭で出したいなと。
それが話題になれば、世界から「日本の参入規制ってなんのためにあるの?」という世界の声に変わっていく。
そうなると少しずつ日本は変わっていくのではないかと思います。
お酒造りに込める想い・将来のビジョン
インタビュアー:まっすー
最後に、岡住さんのモチベーションの源泉、それから若いつくり手さんに対して一言お願いできますか?
岡住 社長
モチベーションの源泉的なお話で言うと、僕は若いうちにどう生きて、どう死のうか悩み尽くしました。
結果、たどり着いたのは自分のためにはそんなに頑張れないなということ。
例えば、有名になりたい、お金持ちになりたいとかそういう自分のためだけのモチベーションだと圧倒的なパワー出ない。
でも、人のためだと頑張れる。
人ってかなりモチベーションになるんですよ。
家族や従業員、地域の人を幸せにしたいんだと思って、その人たちが幸せになる顔を思い浮かべる。
そうするとやる気は自然と湧いてくるものです。
人間、失敗しても成功してもどうせ死ぬんですよ。
どうせ死ぬなら、頑張ったほうが面白い。
なので、毎日、明日死んでもいいぐらい頑張りたいと考えています。
それから、若い人たちに醸造家になりたいと思ってもらうためには業界として儲かる構造にしないといけないです。
実際、重労働の割には蔵人の給料は低いです。
そして、きつい労働をした上で独立できるかというとそれはできない。
つまり、若い人が働くにおいて夢がない産業になってしまっているんです。
だからまず自分のところは賃金体系として、きちんとみんなにお金を払いたい。
最低でも年間400-500万ぐらいは払ってあげて、最終的には800万円は払えるようにしたい。
800万円を目標にしているのは、それを超えるとそこからはあまり幸せの度合いは変化しないという研究結果が出ているからです。
僕はそれを逆算して、値段づけ、価値づけしている。
農家さんだってそうです。
農家も売上が上がれば、息子さんに継いでもらいたいとかできる。
僕が一番最初に農家さんに自然栽培米を依頼して買い取るときに、「一俵25,000円です」と言われました。
でも僕は「それは安すぎるから50,000円で買います」と言って、倍の値段で買いました。
価値のあるものにはきちんとした対価で払うべきです。
未来のつくり手を作るためには、儲かる産業にしなければなりません。
そのためにまず自分ができる事は、自分の会社の社員を幸せにすること。
うちの会社に入って、イベントなど楽しいことして、賃金も良くてプライベートもいい状態にする。
実際、自分のところにきた若手にはお酒造りのノウハウや経営的なノウハウを教えています。
そして、自分のところで修行した人たちが独立するのを後押ししたい!
実際、自分のところの醸造所の周りは、空き家ばかりなので、そこで小さなマイクロビュリューワリーを作ってもらってもいい。
それがたくさん並ぶと街として面白いですよね。
それを実現できるように、ひとまず男鹿だけは日本酒造っても良いよと言うふうになるよう日本酒特区を創りたいと思っています。
もしお酒造りなどに興味があれば、うちに来てください。
一緒に革命を起こしましょう。
最後に
2022年5月28日(土)19:00から、今回ご紹介した稲とアガベの岡住社長を迎え、オンライン酒蔵留学を開催します。
今回は、未発売のお酒「どぶろくホップ02」の720mlサイズと今回話に出た自然栽培米の現物をお届けして、「クラフトサケとは何か」をテーマに、学びのオンライン酒蔵留学を行います。
皆様のご参加、ぜひお待ちしております♪
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