岩手県紫波町でお酒造りに励む女性杜氏"横沢 裕子(ひろこ)"さんにオンラインインタビューしてきましたので、ご紹介します。
岩手県紫波町といえば、南部杜氏発祥の地とも呼ばれ、お酒造りには定評がある土地柄。
今回は岩手県紫波町の地酒造り、そして女性杜氏ならではの苦労や日本酒文化を身近にする様々な取り組みなどに関してインタビューしました。
また7月2日(土)19:00から、その横沢杜氏そしてご主人である横沢 孝之社長を招いてオンライン酒蔵留学を行います。
オンライン酒蔵留学とは、毎月一回、今ホットな蔵元さんをお招きして、日本酒に関して、つくり手に関して、その地域文化に関して、おうちで一緒に飲みながら学ぶ新しいサービスです。
本記事を読んで、当日のオンライン酒蔵留学をもっとディープに楽しめるものにしましょう♪
月の輪酒造店 杜氏
横沢 裕子(ひろこ)さん
岩手県紫波町出身。
酒蔵3人娘の長女として代々続く蔵を継承。現在はご主人の横沢 孝之社長と夫婦二人三脚でお酒造り、そして日本酒文化の啓蒙活動に勤しむ。
目次
「月の輪酒造店」について
インタビュアー:まっすー
横沢杜氏、今日はよろしくお願いします。
早速ですが、月の輪酒造店さんについて少し教えてもらえますか?
横沢杜氏
私たちは岩手県紫波(しわ)町にある小さな酒蔵です。
「月の輪酒造店」の「月の輪」とは、平安時代後期に起こった「前九年の役」において、源頼義、義家父子が陸奥の反乱を鎮圧した際に、池に映った金色の月を吉兆としたという伝承が伝えられており、そこから命名しております。
元々の意味とは違いますが、ツキノワグマにかけて、お酒のマークなどにも熊にちなんだデザインを多く取り入れています。
もともと横沢家は酒蔵ではなく麹(こうじ)を作っていました。
4代目当主が酒造りへの情熱に燃え、酒造業を創業したのが明治19年(1886年)のことで、これが月の輪酒造店の始まりです。
ですので、私は横沢家としては8代目ですが、酒造業としては5代目になります。
平成になって法人化した後も「企業としてではなく家業として」を企業理念にすえ、この地を代表する地酒を醸しています。
企業理念「企業ではなく家業として」とは
インタビュアー:まっすー
ちなみに、「企業としてではなく家業として」の真の意味とはどういうものなのでしょうか?
横沢杜氏
文字通り、「会社としてではなく代々続いてきた家業としてお酒造りを行っています」ということを強調するためにそれを企業理念に据えました。
昔から、例えば町の食堂やお豆腐屋さんというのは代々「親から子」にその味が伝承されてきました。
しかしながら、お酒造りではなぜか「親から子へ」ではなく、「親から杜氏さんへ、そしてその杜氏さんからまた違う杜氏さんへ」ということが多くありました。
そうなると「杜氏さんが変わったので、味が変わりました」ということがよく起こります。
ですので、私たちはそうではなく「蔵の味を代々の当主が伝えていく家業としてのお酒造りを大切にしていこう」ということで、平成に入って法人化するときに、初心に返って、このような企業理念にいたしました。
なぜお酒造りに不向きな"地元産のもち米"を使うのか?
インタビュアー:まっすー
いろんな記事を見ていて、地元のお米や水に対するこだわりを感じました。
例えば、紫波町が日本一の生産量*を誇るもち米を使ったお酒造りを行うなど、一風変わっていると思います。
どうしてそこまで地元のお米やお水にこだわるのでしょうか?
*紫波町の農協が合併する前まで
横沢杜氏
実際、もち米はお酒造りにはあまり適さないお米です。
それでもなぜ使うのかというと、「地酒屋」と言ってるのに他県産のお米を使うとそれは地酒とは呼べないと思うからです。
やはりこの地域はもち米の生産が盛んですので、それを使ったお酒を造ってみようじゃないかということで始めました。
事実、もち米は麹を作るのが難しいんです。
それでも経験を積んでいけば上手くなってくるもので、始めた当初は「もち米を使うなんて」と怪訝な顔をされた方もいらっしゃいましたが、今ではいろんな方が作り方を教えてくれと言われます。
まあそう言われても絶対教えませんが(笑)
とはいえ、他県産のお米も多少使いますよ。
やっぱりいろんな話聞いてると、他県のお米も使ってみたいと思ったりもするので、そこは勉強として、多少使ってみたりします。
現在は地元のお米9割、他県産のお米1割程度といったところだと思います。
酒蔵の娘として生まれ、後継者になることへの葛藤
インタビュアー:まっすー
酒蔵の娘として、蔵を継ぐということでいろんな葛藤があったのではないかと想像しますが、どうでしょうか?
横沢杜氏
妹が二人いるのですが、親も妹たちも私が継ぐものだと思っていたようです。
ですが、当の私は「絶対やるものか」と思っていましたね。
蔵の閉鎖的な感じだったり、昔ながらの「女性はこうあるべきだ」みたいな固定概念がとても嫌だったので、絶対家を出て、東京に行こうと決意し、東京の短大に行って、服飾を専攻しました。
服飾を選んだのは叔母が洋裁をおこなっていたので興味があったということもありますが、実際にはなんでもよかったんです。
その東京の短大は高校からの推薦が出ていたので、「確実に東京に出られる方法」として選択しました(笑)
しかしながら、実際に岩手を出てみると、逆に岩手のものや着物などの伝統産業などに魅力を感じ始めましたね。
短大を卒業して、フリーターのような生活をした後に、広島の醸造研究所に3ヶ月修行に行き、それから岩手の蔵に戻ってきました。
お客様が求めるものと自分達が造りたいと思うお酒造りとのギャップ
インタビュアー:まっすー
実際、お酒造りそして酒蔵を経営する立場になって、難しいと思われる点はどんなことですか?
横沢杜氏
自分が造りたいお酒とお客様が求めるお酒のバランスをとるのが難しいですね。
弊社のお酒は香りがぷんぷんするような感じではなく、基本的にはやわらかくて含み香がほのかに口から鼻にかけて抜けていくような食中酒に合うお酒が多いです。
ですが、最近の若い人たちの食事を見ていると、最初から焼き鳥と甘ーい梅酒を頼んだりする人たちが多い印象です。
おそらく今の若い人たちの飲食スタイルの背景には、孤食の時代で育っているので、親が家におらず、ジュースを傍において食事を食べているケースが多かったことが要因の一つかもしれませんね。
ですので、そういう今の若い人たちが求めるようなお酒を造っていくべきなのか、はたまた自分達が思うお酒を造っていくべきなのか、酒質の設計としては難しいところですね。
女性杜氏として、子育てをしながらお酒造りをすることの大変さとは
インタビュアー:まっすー
なるほど。なんとなく今の杜氏さんならではの苦労が垣間見えた気がします。
ちなみに娘さんもいらっしゃいますよね?
子育てしながらお酒造りを行わないといけないといった女性杜氏ならではの大変さはどういったものがありますでしょうか?
横沢杜氏
今はうちの娘は八歳なのですが、実際大変ですね。
ただ現在は、蔵女性サミットというのがありまして、その中で女性杜氏・蔵人同士の意見交換をする場もあります。
もともと女性は蔵の中での立ち位置が低く、酒蔵の娘はもとより蔵に働きにきた女性がすぐにやめてしまうということが起こっていたので、それをくい止め、蔵で働く女性達を応援するために始まった会です。
その中で色んな意見交換しますが、女性杜氏、蔵人みんな子育てやりながらお酒造りをやっているので、大変さは一緒だと思います。
私が思う一番難しいなと思う点は、お酒造りだからというわけではなく家で仕事をするということですかね。
私にとってはこの酒蔵が家でもあり仕事場でもあるので、娘の立場からすると
「近くにいるのになんで遊んでもらえないんだろう」
とか
「一緒に遊びたいけど、遊べない」
といった感じで寂しい思いをさせてしまってるなという思いはあります。
耳を澄ませば、蔵の中でふつふつと発酵するお酒を観察する楽しみ
インタビュアー:まっすー
近くにいるのに相手することができないというのはなんとももどかしいところですね。
逆にお酒造りをやって楽しいことはどんなことですか?
横沢杜氏
やっぱりお米が微生物の作用で液体に変わっていくこと、その過程を見ているのは面白いなと思いますね。
夜、蔵に行くと誰もいなくて静かなのですが、タンクに耳をくっつけて聞いてみるともろみが発酵する音がふつふつと聴こえるので、とても楽しいです。
なぜ月の輪酒造店はチャレンジし続けるのか
インタビュアー:まっすー
御社はもち米や無農薬米でのお酒造り、麹を使ったジェラートの販売、V Tuberや岩手県の大学生とのコラボなど様々な取り組みをしてらっしゃいますが、なぜそんなにチャレンジするのでしょうか?
横沢杜氏
やっぱりもっと日本酒文化に興味を持ってもらいたい、身近なものにしたいからですからですよね。
例えばV Tuberとコラボをして販売すると若いお客様が多くいらっしゃったり、これまでと違った手応えを感じます。
麹を使ったジェラートに関しても、もともとは健康食品として病気の方々に食べていただこうと開発したものです。
昔から甘酒は飲む点滴と呼ばれたりもしますが、実際に寝たきりの人の点滴の中に入れるわけにはいかないですよね(笑)
ただアイスクリームだったら寝たきりの人でも摂取することができます。
なので、そこから開発が始まり、結果として病院では取り入れられなかったのですが、自社の小売店で販売を開始して、今ではジェラート目的にやってくるお客様がたくさんいます。
そうすると、なんでジェラート屋にお酒があるんだというお話になり、実はうち酒蔵なんですというお話からお酒を買って行かれる方も増えています。
そんな形で日本酒をもっと身近にしたり、自社のことを知ってもらうために色んな方とコラボしたり、単にお酒を造るだけではない新しいチャレンジをしています。
その他にも酒粕を活かすためのSDG's的な面白い取り組みを行っていますが、その辺りはイベント当日にお話しさせてもらいたいと思います。
日本酒文化を応援してくださる皆様へ一言
インタビュアー:まっすー
とても面白いお話です。
最後に、日本酒文化を応援したくださる皆様に向けて一言お願いしても良いでしょうか。
横沢杜氏
いっぱい飲まなくても良いと思うので、良いお酒を少し飲むということをしてほしいなと思いますね。
私の時代には居酒屋の飲み放題であまり美味しくない日本酒を一気飲みさせられて嫌いになるということはありましたが、今はそもそも居酒屋の飲み放題メニューに日本酒がないことも多いですよね。
ということは日本酒に触れる機会がなくなっているということだと思います。
ですので、積極的にきっかけを作って、少しでいいのでお酒を飲んでみてほしいなと思います。
そして、一つの蔵で色んなお酒が出ていますので、自分に合うお酒はどれかな?という探究心を持って少しずつ飲み比べしていただければと思います。
最後に
横沢杜氏、ありがとうございました。
2022年7月2日(土)19:00から、今回ご紹介した横沢杜氏とご主人である横沢社長を迎え、オンライン酒蔵留学を開催します。
今回は、ハンズオン初のご夫婦でのご出演そして岩手のお酒ということもあり、「夫婦岩手のお酒を楽しむ会」と題して行います。
皆様のご参加、ぜひお待ちしております♪
■詳細&お申し込みはこちら
https://hands-on-local.com/products/sakaguraryugaku_sabusuku
1件のコメント
美味しいお酒を少し呑む🤏❣️😆
まさに、私が追い求めているものです。呑みすぎるけど😅
いつも、送られてくるお酒は皆んな美味しいけど、あのサイズが一番気に入ってるのもある。
今回は参加できないのが残念です。女性の作り手さんとリアルでお話ししてみたかったー❣️😆