第40回 オンライン酒蔵留学 レポ
オンライン酒蔵留学は、おうちにいながら地方のお酒の作り手さんとダイレクトにつながって、一緒に乾杯できる日本酒通販サービスです。作り手さんの想いや人柄も味わうことができ、日本酒を通して「人生の学び」や「新たなつながり」が生まれます。離れて暮らす仲間と「たのしく学ぶ」ことで、いつものお酒がさらに美味しく味わい深くなっていきます。
本記事は、2024年2月24日(土)に開催された<山口県周南市はつもみぢ>オンライン酒蔵留学のレポートです。はつもみぢさんの酒蔵独自の取り組みやお酒造りのコンセプト。お勧めのペアリングだけではなく、蔵元や杜氏さんのユニークな物語まで、留学当日のエッセンスをギュッとまとめてお届けします!
<はつもみぢ>とは
1819年創業。200年の歴史を持つ、山口県周南市にある老舗酒蔵。
「あなたの季節になる造り酒屋」をめざして、四季醸造でフレッシュな純米酒を通年で提供。
山口県鹿野の天然水を汲み、山口県産米100%。醸造アルコールを使用せず、純米酒にこだわっている。
「はつもみぢ」は、山が紅葉する様を詠んだ和歌に由来。お酒で顔が赤くなる様子を酒蔵の名に。
角打ちスタイルの「原田酒場」も併設。
『地元の酒を出してくれ』のひと言に一念発起
代々続いてきた酒蔵に最初に訪れた危機が、1945年の空襲でした。全焼した酒蔵を戦後まもなく再建するも、経済復興の中でビールや海外からのお酒の消費が伸びていく時代に。日本酒の売上げは低迷し、当社も1965年から20年ほど酒造業を中止。造ってもらった酒を「桶買い」して細々と自社商品を販売していました。
また山口県内で販売されている日本酒のうち、県内産日本酒シェアは20%とわずかです。私自身も大学卒業後、大手酒造メーカーで営業に携わり、地元に戻ってからも他県の酒を販売し、酒造りを再開する予定もありませんでした。
そんなある時、徳山に出張で来られたお客様から『地元の酒を出してくれ』と言われて、地元、徳山の酒が出せないことに気がつきました。自分は酒造りの免許を持っているのに、徳山のうまい酒をつくれない…。
「地元徳山のうまい酒を造りたい!」と突然強い使命感にかられたのです。
山口県きき酒競技会優勝6回・全国きき酒選手権大会準優勝
一方で、父に勧められて出場した山口県のきき酒競技会で優勝6回、2006年の全国きき酒選手権大会で準優勝という実績から、利き酒の能力があることにも気づき始めました。
周囲から酒造り再開への期待が高まる中で、ある日『利き酒競技会優勝の記事を見た』という方から言われた言葉が決定打になりました。「利き酒ができるのに、どうしてうまくない酒を出しているのか」と。その悔しさが心に火をつけ、本気で酒造りに戻る決心をしたのです。
<旭酒造 桜井博志社長の著書『逆境経営』の中で、原田蔵元の利き酒について紹介されている>
<味のわかる男>として酒造りを
そして35歳で、広島にある酒類総合研究所の醸造試験場に飛び込んだのです。3ヶ月間みっちり酒造りを実地で学び、酒蔵として本格的に再スタートしました。
今思うと、先祖11代全員から背中を押された…いや、蹴られたのだと感じています。ですから、代々の苗字「原田」を看板の酒に。
さらに2004年に発足したばかりだった山口酒造組合<青年醸友会>にも応援されました。既に人気商品を出していた年下の仲間に毎朝電話をかけて、わからないことを聞いていたのです。「なんでも助けるから、原田さん、やったらいい!』と、忙しい中でも必ず電話に出てくれて、惜しみなく教えてくれました。地元の酒蔵同士のつながりに、今も感謝しています。
「酒造りは子育てにも似ている」女性杜氏をはじめ、女性スタッフが活躍
週休2日・週40時間のシフト制・通年雇用が生まれる四季醸造を導入して、新しい酒造りのスタイルで、地元の雇用促進にも貢献したいと考えてきました。女性の応募も多く、その繊細さや効率的な時間の使い方は、酒造りに活きています。家庭と両立できる職場づくりに取り組むことで、杜氏をはじめ蔵人も女性が活躍。LINEやスマレジ等も積極的に活用して運営の効率化を心がけています。
スタッフ同士の率直な意見交換も活発で、良い意味で<家業>としての伝統も残っていると感じています。
<令和5年度 やまぐち働き方改革推進優良企業表彰 特別賞受賞>
角打ちスタイル「原田酒場」オープン!
2023年、徳山の繁華街でもある立地を活かして敷地内に角打ちスタイルの「原田酒場」をオープン。立ち飲みの他テーブル席もあり、麹を使用したノンアルコールドリンクも揃っています。ランチタイムや0次会として、日本酒に馴染みのない方や女性にも親しんでもらえる「遊び場」をつくりました。
酒蔵見学も受付中
みんなを幸せにするための酒造り
お酒はみんなを幸せにするものだと、私は思うのです。
品質はもちろん、みなさんの笑顔と感動のために、酒造りに携わるみんなで手を取り合って、みなさんを幸せにするうまい酒を造っていきます。
ぜひ一緒に楽しんでいきましょう!
お子さんを育てるように日々お酒を育てる、料理好きのお母さん杜氏
(画像引用:『山口県の働き方改革を学ぶ旅』より)
2代目杜氏 阿部美恵さん
今回のオンライン酒蔵留学では、<酒造りへのアツい想い>や<ペアリングのお料理>について教えていただきました。
始まりはハローワーク求人の「一緒にお酒を造りませんか」のフレーズでした。当時は日本酒が苦手だったのですが、はつもみぢのお酒のおいしさに感動しました。蔵人の一人としてお手伝いを続けるうちに仕事を覚え、副杜氏として酒造りに携わるようになったのです。
杜氏になろうと決めたきっかけは、山口県の新酒発表会で賞をとれなかった悔しさでした。副杜氏としての実績も積んできたところだったので、「こんなに美味しいお酒をつくる人がいる。私も美味しいお酒を造りたい」と強く思い、『杜氏にさせてください!』と社長にお願いしたのです。実は、杜氏になるお話しはずっとお断りしてきました。でも自分なら美味しいお酒を造れる。みんなを感動させるお酒を造りたい」と新しいチャレンジが始まったのです。
酒造りでは、日頃ご意見を知る機会がないため「これで大丈夫なのか」と不安になることもあります。今回みなさまから「おいしい」というお言葉をいただいて、本当に涙があふれて「よかった」とひと安心。今後ともよろしくお願いいたします。
オンライン利き酒 純米酒3選 阿部杜氏がテイスティングとお酒に合うアテを解説!
原田 純米大吟醸
原料米:山口県産山田錦
精米歩合:50%
アルコール度:16度
原田 純米大吟醸は、フルーティーさと甘さが口の中に広がる「原田」ブランドの看板商品。香りがふくよかで、冷やでも華やか。どなたでも飲みやすく、贈答用にもオススメの純米大吟醸。
ペアリング
お酒に甘みがあるため、カルパッチョや日向夏の酸味がベストマッチ!ワサビのツンとする辛みもお酒を引き立ててくれます。
西都の雫
使用米:西都の雫(山口県内の酒蔵だけで使用される山口県オリジナル酒米)
精米歩合:60%
西都の雫は、度数はあえて高めで、ガツンと来る味わい。
フルーティーで飲みやすいパイナップルのような香り。
複雑さもあるため、飲む人によって違うテイストに。
ペアリング
お酒のインパクトに負けない肉料理と一緒に。
焼き肉にもオススメ!
原田 純米酒80
山口県産山田錦 80%磨き。
アルコール 16度
原田 純米酒80は、ほとんど磨いていないお米の味をぜひ味わってほしい逸品。酸味は高くなく、お酒好きにも満足していただける深くやわらかな味わい。酸味は高くなく、お酒好きにも満足していただける深くやわらかな味わい。50度前後のぬる燗もおすすめ。
ペアリング
おだしの味に合う日本酒で、おでんは熱燗・ぬる燗とも好相性。
お魚とも相性が良く、煮付けの甘辛味もさっと引く深い味わい。
蔵元推し酒 ピックアップ3選
今回の利き酒3種に加えて、さらに注目のお酒を原田蔵元と阿部杜氏からご紹介いただきました!
末摘花
山田錦 50%磨き
酒母しぼり うすにごり
末摘花は、酸味が高く、天然のシュワシュワ感。レモンスカッシュのような甘酸っぱさで、日本酒を飲んだことがない方にもオススメです。
数量限定・不定期販売のレア酒。
泣かす酒
泣かす酒は、周南市中須地区の棚田で農薬を一切使用せずに育て、昔ながらの「はざかけ」「天日干し」をした自然栽培米コシヒカリ「泣かす米」 65%磨き
自然米は天候に左右されない強さもあり、もともとのお米の美味しさで、今年も格別美味しいお酒に仕上がりました。
収量わずかの貴重な飯米のため、毎年数量限定で販売。
て、咲く
て、咲くは、「手でさわる、ふれる。」をイメージして創業200年の節目にリブランディング。
次の100年に向かって、季節のテーマに合わせて蔵人が醸す、高品質でチャレンジングなお酒。
プロトタイプとして数量限定で販売。
写真は「土潤溽暑」純米大吟醸 限定100本
山口県産酒造好適米「雄町」 40%磨き
<今回は18都道府県から36名(初参加1名)の酒蔵留学生が参加!>
留学生(参加者)感想より
『大吟醸・西都の雫はアテなしでもいける!』
『女性向けのお酒造りに期待』
『純米80は食事にも合う』
『西都の雫にハムカツ!』
『阿部杜氏をモデルにして女性杜氏の映画をつくろう!』
…和やかな雰囲気で、酒米の磨きについての質問に回答していただく場面もありました。
原田さん・阿部さん ありがとうございました!
<次回予告> 第42回 オンライン酒蔵留学 櫻田酒造・四代目蔵元杜 櫻田博克氏
1914(大正3)年創業の櫻田酒造は、奥能登の猟師町石川県珠洲市蛸島町にあり、家族4人で営まれている小さな酒蔵です。
手がける銘柄は二つ。創業銘柄で平成に入って復活させた純米酒の「大慶(たいけい)」と、本醸造・上撰の「初桜(はつざくら)」。どちらも地元のみなさまに愛され親しまれてきたお酒です。
実は昨年5月、震度6強の地震により蔵の壁が崩れる被害を受け、修復したばかりでした。ところが「正月明けから仕込みを」と思っていた矢先の今年元日、再び震度6強の地震に襲われて一瞬で蔵も自宅も倒壊してしまいました。命からがら逃げ出せたものの1,000本以上の在庫が廃棄となりました。
ハンズオンSAKEでは、地震発生直後の1/3から弊社運営のクラウドファンディング“SAKEクラファン“にて能登半島酒蔵支援プロジェクトを立ち上げ、872口・8,303,028円を日本酒造組合中央会に寄付させていただきました。その後、2/20に代表増田とオンライン司会者コカドの2名で能登へ出向き、櫻田さんにも直接お会いしてきました。
櫻田さんはこの惨状を前に「廃業」の文字が頭をよぎったそうですが、お客様や取引先からの応援の声に心動かされ、酒造りの再開を誓われました。そして石川県内の酒蔵の協力を得て共同醸造にとりかかり、前向きに取り組まれています。
(次回オンライン留学では、蔵に残っている最後のお酒をお送りいただきます。)
今、私たちにできることは、そんな櫻田さんの想いを飲み、語り繋ぐこと。
みんなで一緒にこれからの櫻田酒造、そして能登の未来について語りませんか?
つくり手さんと「つながる」
つくり手さんの想いを「のぞく」
自分たちの世界観を「ひろげる」
次回もハンズオンポーズで乾杯!